変わる?大学入試。その方向性と課題
- 2015/01/27
文部科学大臣の諮問機関である中央教育審議会。まさに、日本の教育の方向性を議論し、定めてきたこの中教審。しかし、最近では政権党の思いに沿う結論ありきの議論が目立つとの指摘もあり、その権威もやや低下しつつあるようです。
2014年12月22日、中教審から大学入試を大幅に見直す旨の答申が出されました。現在の大学入試は知識偏重の傾向が強く、受験生の総合的な評価をできていない。一点刻みの入試に対応するための高校教育となっていて、いわゆる生きて働く学力が高校教育段階で重視されていない。こうしたことが見直しの理由のようです。 今後大学受験を控える子どもたちや、その保護者の皆さんにとっては、きわめて重大な関心事だと思います。そこでその概要や実施時期を簡単にお知らせしたいと思います。
現在も大学入試は多様です。かつての共通一次試験の現代版であるセンター試験を受け、その得点をもって各大学を受験するケース。高校による推薦を受けて、面接などで合否判定するケース。AO入試…。私学などでもセンター試験の得点を合否判定の資料とする場合が多くあります。ちなみにこのセンター試験はマークシート方式です。
センター試験廃止?
このセンター試験を抜本的に見直します。マークシートのみの方式から記述式の問題も取り入れるようになり、教科にとらわれず例えば国語と英語とを組み合わせた問題なども課し、総合的な思考力を評価するとしています。点数も一点刻みでなく、数段階のレベルで示され、大学側が受験生に対して求めるレベルを示すこととなります。また英語にはTOEFLなどの民間テストも活用されるようです。答申では年に何度か受けることも想定しています。
この『大学入学希望者学力評価テスト』を受けた上で、大学ごとに2次試験を受けます。筆記試験ではなく、面接や集団討論、小論文、ボランティア経験、部活動経験などによって多面的に評価されます。基本的にはこの2つの試験を経て、最終的な合否判定となります。
高校2年生も受験?
これ以外に、「高等学校基礎学力テスト」も実施されます。高校2年生と3年生時に複数回受験でき、主要教科の定着度合いを測ります。大学や専門学校によってはこのテストの結果を合否判定に活用する場合もあるでしょう。高校生活の大部分が入試漬けになる可能性もありますね。
オリンピックイヤーに実施?
次に実施時期です。大学入試に関わる改革ですから、次年度からと言うわけにはいきません。受験生の側にも十分な周知期間が必要です。答申では現在の小学校6年生が高校3年生となる2020年度からの実施が見込まれています。現行の受験を参考にすれば2021年の1月にセンター試験に代わる「大学入学希望者学力評価テスト」が行われることになります。「高校基礎学力テスト」についてはその子どもたちが高校2年生である2019年度から実施されます。答申通りなら現在のセンター試験も後5回限りということですね。
あくまで中教審の答申で方向性が示されただけであり、具体的な議論は今後です。国会での十分な議論も必要です。実施時期も流動的であると思っています。今後の議論で内容が大きく変わる可能性もあります。それほど詰めるべき課題が多いのです。
客観性、公平性を保てるか?
点数から総合的評価へ、この方向性には賛成します。問題は複数回の受験や民間のテストを活用し、記述式の問題も多く取り入れるなかで、公平性をどう担保するかです。また、面接などが重視される中、その評価基準をどうするかも大きな関心事です。人が人を評価するためには十分な時間が必要です。わずか数時間のうちに評価することは至難の業でしょう。合否判定の資料の公開を求められるケースも増えるでしょう。
大学本来の役割を損ねないか?
入試の実施主体である大学の体制整備も心配です。年に複数回の大学入学希望者学力評価テスト、その事務的・時間的負担に大学は耐えられるのでしょうか。面接も前述のようにかなりの時間をとって行う必要があります。毎年10万人も受験する学校もあり、こうした受験生に十分な面接などを行うことが本当に可能なのでしょうか。大学には教育、研究などの大きな役割があります。入試によってこうした大学本来の役割が損なわれるようなことがあってはなりません。
大学入試の改革はすなわち高校や大学教育の改革を意味します。簡単なことではありません。大きな変革は大きな混乱をもたらします。十分な議論と準備が必要です。指導要領との関わりも吟味されるべきでしょう。2020年の実施が時期として望ましいのかどうかはこうした状況によって変わってきます。いずれにしてもきわめて大きな日本教育の変革です。この国会でも大臣と議論してみたい重大案件です。