教員の働き方改革 「変形労働制」導入について
- 2018/04/17
中教審の働き方改革特別部会で、教員の働き方改革の方策として「1年間の変形労働制」導入を検討するとの報道がなされた。背景をおさらいしつつ、私なりの考えを述べたい。
学校の先生方の働き方をみると時間外勤務が異常に多い。過労死ラインを超える働き方が常態化していて、心身の不調を訴えて休職を余儀なくされる者の割合も他業種に比べ極端に多い。
なぜこのように時間外勤務が多いのか。その要因としてあげられるのが給特法だ。先生の勤務時間外の仕事は修学旅行などの行事や児童生徒の実習、職員会議、非常災害時の対応など4項目に限られ、それ以外はすべて自発的行為、時間外勤務手当も支給しない、そのかわりに調整額として給料を4パーセント上乗せする。このように同法で規定されているのだ。
つまりは部活動や授業準備や保護者対応で1日何時間働こうが上限は一切なし。残業代もプラスは出ず、1ヶ月6時間分に相当する調整額のみ。どんな過酷な環境だろうが労基署による指導も入らない。
今の学校は次々と様々な役割が持ち込まれて忙しい。社会で何か問題が起きるとその対策は教育でとなる。○○教育が次々と学校に持ち込まれる。行政も政治も学校に任せておけば簡単だし楽だからだろうか。その対応のために学校現場は四苦八苦する。
その上、学習指導要領の改訂により授業時間も増加、今度は小学校で英語をやれ、道徳も教科化だ、プログラミングも教えろ、拉致問題も学校で教えろとなる。でも金は出さない。人は増やさない。残業代も払い出したら財政がパンクする。申し訳ないが、まじめな先生たちにただで働いてもらいましょう。これが現実だ。結果として必然的に多くの先生たちが精神疾患に追い込まれていく。
昨今の過労死や自死の問題などを受けて働き方改革の議論が高まっている。政府も法整備をして労働時間に上限を定める方向で動き出した。しかし、教員は対象外だ。
そして今回、時間外勤務解消の対策として、冒頭示した変形労働時間制が議論の俎上に上がってきた。簡単に言えば、先生たちの長時間労働の是正は事実上難しい。仕事を減らすことができない。残業代を払ったり、定数を増やしたりする財政上の余裕もない。それなら、日常の働き方も業務量も今のままで、いっそのこと時間外労働そのものを認めることにしよう。時間外働いた分は金で解決できないなら、夏休みや冬休みの休業中に超勤分を休みとしてまとめどりさせればよい。子どもたちも学校にいないし、この時期の先生は暇だろう。できるはずだ。そうすれば4パーセントの調整額だって払う必要はなくなるぞ。
こんなところだろう。
学校における「変形労働制」は導入は慎重な議論が必要だ。多くの問題がある。何が問題か整理してみる。
ひとつは働き方改革でもっとも重要な「労働者の健康被害防止」にまったくつながらない点だ。変形労働制を導入したからといって、たとえば学校が最も忙しい4月のこの時期、1日の労働時間が減るわけではない。年度初めに疲弊し、大型連休明けから休職や退職という先生が多いが、この解決にまったくつながらない。どうせ代替で休みをとれる、管理職の立場から言えば、法的にも認められてるんだからどれだけ働かせてもかまわない、となりかねない。今以上に心身を病む先生が増えるだろう。
さらに、前述したように変形労働制が導入されれば今はかろうじて4パーセント支給されている調整額は廃止されるのでないか。支給根拠を失うからだ。結果、働き方は何も変わらないのに、給料だけ減ることになる。
また、教員にとって夏休みや冬休み、春休みなどの長期休業中はいわれるほど暇ではない。特別休暇や年休の消化などで休みをとる機会は確かにある。それらを除けば部活動指導やプール指導、さらには法制研修などが毎日のように入るのが現状だ。これまで特別休暇や年休でとっていた休みをただ超過勤務分の代替休みに置き換えるだけで終わってしまうのでないか。
もう一点、教職員の定数を増やしたり、業務内容を精選したりすることのモチベーションが極端に下がることが危惧される。財政当局への働きかけも困難になる。文科省としても大きな問題でないのか。
財務省は教育に金をかけることを極端に避けてきた。総理夫人の姿が見え隠れする学校法人には国有地を8億円も値引きして売るのに…。ちなみに8億円もあればその年1000人ほどの先生を雇い入れることができる。どれだけ現場が助かるか。どれだけ先生の健康被害を防ぐことにつながるか。優先順位が間違っている。
いずれにしても、学校における「変形労働制」の導入は、行政の側からは妙案かもしれないが、現場で働く側からは辻褄合わせの愚策だ。再考を促したい。