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夏休み授業について考える

  • 2020/05/09

新型コロナウイルスの影響により、全国多くの地域で学校休校が続いている。仮に緊急事態宣言が5月末で解除され、6月から学校が再開されたとしよう。新年度4月5月と2カ月が休校。ネットを活用した学習機会や家庭学習用の課題提供など、自治体ごとに様々な工夫をしているが、これらをすべて授業と読み替えることは困難だ。
年間の授業時数は学校教育法施行規則で学年ごとに細かく決められている。小学校6年生でいえば、国語175時間、社会105時間などなど。総授業時数は年1015時間だ。授業時数でいうところの1時間は小学校は原則45分、中学校は50分と定められている。
さて、4月5月と2カ月間休校となると、残りの期間でこの定められた授業時数をどう確保していくかが大きな問題となる。ざっくり言って、この2か月間でお休みとなった授業日は34日間ほど。単純に34日間×6時間=204時間となるが、様々な行事などを勘案すると、この期間内で行う予定であった各教科の授業はこれまたざっくりと180時間ほどでないか。もちろん地域や学校ごとに差異もある。一概には言えないがイメージを持ってもらうためにこのような想定をしてみる。ちなみに申し上げると、小学校6年生の場合、今年度から外国語の時数が35時間追加されている。
このコロナのために実施できなかった180時間分の学習を残る10カ月でどう捻出するか。最も手っ取り早い方法が、遠足や学習発表会などの行事的な催しの取りやめだ。しかし、本年度は前述のように外国語の追加などによって授業時数が増加したため、各学校ともこれまで実施していた行事などを精選したうえでの計画を立てていた。したがって、安易に削ることのできる行事などはもはやないに等しい。
次に考えられる方法は、夏休みを返上しての授業実施だ。すでに多くの自治体で夏休みをなくしたり、短縮したりして授業を行う方針が示されている。愛知県内でも通常7月21日から始まり8月31日までの夏休みを8月上旬から下旬までに短縮する検討がなされていると聞く。しかし、私には大きな懸念がある。そもそもなぜ多くの地域で約40日間にわたって夏休みが設定され、授業が行われていないのか。もちろん長い休みの期間に普段できない家族とのふれあいや体験的活動を促す意義は大きいだろう。それ以上に多くの地域で夏に授業が行われない最大の理由は暑さ対策だ。一昨年、県内でも熱中症で小学生が亡くなるという不幸な出来事があったことは記憶に新しい。また、全国でも子どもの熱中症が相次いだため、教室のエアコン設置が劇的に進んだことは周知のとおりだ。このことが念頭にあればなおさらだ。
昨年5月には文部科学省から各都道府県教委などを通じて次のような依頼も出ている。
各学校及び設置者においては、児童生徒等の健康を最優先に考慮したうえで、年間総授業時数の確保に留意し、夏季における休業日の延長又は臨時休業日の設定、それに伴う冬季、学年始休業日の短縮又は土曜日における授業の実施等をはじめとした柔軟な対応を検討するようお願いします。夏季休業期間中に予定されている児童生徒等の登校日等においても、当該日にかかる気象予報等の情報に注意し、延期又は中止等の柔軟な対応を検討するようお願いします。(抜粋)
エアコン設置が進んでいるなか、夏休みの延長や夏休み中の登校日の中止等を検討するよう通達が出されている。当然今年も同様の依頼がなされるのだろう。この数年の愛知県の最高気温などをみても最も高いのが7月下旬から8月の上旬にかけてだ。40度越えの日もある。こんななか子どもたちを登下校させるのか。エアコンが設置されていても40度近い酷暑の中、40人近い子どもたちが入った教室が適正な温度が保たれるのか。エアコン設置がなされたといってもそれは多くの学校で普通教室のみの話。特別教室なども含め全館冷房となっているわけではない。熱中症対策がコロナ対策以上に重要になるのではないか。
そして大きな課題がもうひとつ。それは自治体に生じる金銭的負担の増加だ。授業を行う以上、現場の大きな力となっている非常勤講師のための予算の新たな追加が必要となる。国に検討を要請しているが、追加配当があったとしても3分の1、残りの3分の2は自治体負担となる。通常休業中に学校を動かすことによる光熱水費の確保も必要だ。こちらは市町村負担が主だ。ちなみに人件費も光熱水費も休校中もいつもと同じように支出されている。
水泳などの屋外での活動も実施は困難だろう。午後も授業を行うならば給食の準備も必要だ。食中毒などの危険を考えれば弁当持参などもってのほか。ナーバスな検討が必要だ。
このように夏休み中の長期間の授業実施には超えるべきハードルが多い。地教委ではこうした検討も十分にされて判断がなされているものと考えるが、そうした検討結果と実施に至る判断の根拠を保護者や住民に細やかに説明する必要があるだろう。
以下はこうした状況を踏まえての私の私見だ。
・ 夏休みの授業実施はできるだけ短期間とし、実施時期もやや暑さが和らぐ8月下旬1週間程度が望ましい。
・ 7月下旬から実施するのであれば少なくとも午前中3時間ほどの授業にとどめ、午前中に下校できるよう配慮する。
・ プール学習も含め、屋外での学習は禁止する。
ではどのように授業時間を確保するか。方法はいくつか考えられる。
・夏休み中に5日間程度の授業で30時間を確保
・9月から12月に隔週で土曜日授業、24時間を確保
・冬休みと春休みを数日ずつ短縮 30時間を確保
・9月から12月 週のうち3日を45分から40分授業に改編し、1日7時間実施する。40時間を確保
これらを複合的に実施し、ある程度の授業時数を確保する。休校分すべてを賄えないが授業時数そのものは確保できるのではないか。あとは学習内容の精選と質の向上、授業時数の扱いを柔軟なものとし、必要最低限の学習内容の担保は各学校現場に任せることを明確に文科省が打ち出すこと。学校現場は子どもの実態に応じて工夫しながら学ぶ権利の保障に力を尽くすだろう。何が何でも規定の授業時数を確保しようとやっきになり、安易に夏休みの大幅な短縮などの方策をとることは避けることが賢明だと思う。できる範囲で教育委員会と教員が知恵を絞り力を合わせて最善の方法を考える。これがいつの時代もベターな方策である。

こうした対応をするよりも容易に授業時数を確保する方法がある。9月始業への転換だ。本年度はすでに4月に始業済み。具体的、制度的に変更が必要なのは来年9月だ。時間は十分ある。